OTHERSIDE速報|アザ速

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日本のメタバース事情2023(通信事業編)

OTHERSIDEの開発企業であり、イギリス発のVRツールの開発企業Improbableは、ソフトバンクグループである「SoftBank Vision Fund 2」や米大手ベンチャーキャピタルのa16z(Andreessen Horowitz)から出資を受けています。このImprobableは、Web3.0とメタバース領域に進出するにあたって2022年に約190億円を調達したと発表しており、中でもYuga Labsとの共同事業が収益に大きく貢献していると述べています。

このようなソフトバンクの取り組み以外にも、近年日本の通信事業グループは様々な形でWeb3.0やメタバース事業へ参入しています。そこで、今回はOTHERSIDEとの直接的な関わりは薄いですが、日本国内の通信事業者がどのようにメタバースと関わっているのかを「ソフトバンク」「NTTドコモ」「KDDI」の3社の施策を踏まえて考察していきます。
 
※この記事は2023年現在の情報です。
 

日本の通信事業とメタバース

SoftBank Vision Fund 2をはじめとするソフトバンクの施策

SoftBank Vision Fund 2はユニコーン(創業してからの年数が10年以内、企業価値評価額が10億ドル以上の未上場ベンチャー企業)を中心に、テクノロジーを活用した成長企業を対象に投資をおこなうファンドです。
近年はWeb3.0・メタバース分野への投資が加速しており、オークランド発祥の人工知能開発企業であるSoul Machines社の資金調達を主導しました。他にも韓国のインターネット企業NAVERの孫会社で、メタバースプラットフォームZEPETOを運営するNAVERZに約170億円を出資しています。

また、ソフトバンクは2023年春にメタバースの情報サービス「5G LAB in ZEP」を公開しました。これは5G LABのサービスサイトを内容そのままにZEP(韓国のZEP社が運営するメタバースプラットフォームで、ZEP社はZEPETOの運営会社NAVERZとSUPERCATが出資して作った合弁会社)で表現したもので、ユーザーは自分自身の2Dアバターを操作して情報を取得できる、新感覚のメタバース情報ツールとなっています。


5G LAB|メタバース
 

XR Worldでメタバースへの敷居を下げるNTTドコモ

NTTドコモは、2022年3月からマルチデバイス型メタバース「XR World」を提供しています。これは、NTTグループが展開する「NTT XR」の取り組みの一つで、アバター同士がチャットやボイスなどでコミュニケーションをとりながら、さまざまなコンテンツを楽しめます。一部コンテンツを除いて無料である上、アプリでなくWebブラウザから利用できて専用のHMDも不要のため、初心者も気軽にメタバースを体験できるものになっています。

これまでに、藍井エイルさんや南條愛乃さんら音楽アーティストによるライブ映像などを楽しめるコンテンツや、「森口博子 GUNDAM SONG COVERS」「TOWER RECORDS」といった専用ワールドなどが制作され、音楽コンテンツが拡充しているのが特徴です。アニメ「NARUTO」とのコラボなどもおこなわれ、幅広いファン層を集める施策を次々におこなっています。

さらにNTTドコモは、東日本旅客鉄道株式会社、株式会社ジェイアール東日本企画、株式会社HIKKYが運営者として提供するメタバース・ステーション「Virtual AKIBA World」と連携した取り組みもおこなっている。このような、メタバースによってさまざまな企業が連携し、結果として人々があらゆるメタバースをシームレスに行き来できるようにする取り組みは「オープンメタバース構想」と呼ばれ、新しい社会基盤になるかもしれないと考えられています。

通信業を牽引してきた企業として、メタバース時代の新しいコミュニケーションを提供し、XRを中心としたネットワークを築いていくというビジョンを感じられます。


XR World 公式
 

エンターテイメントから都市プロジェクトへ進むKDDI

KDDIは、2019年「渋谷の都市体験をエンターテインメントとテクノロジーでアップデートする」というテーマで、5G通信とAR・MR技術を活用した渋谷の都市体験の拡張に取り組んでいました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、リアル空間を起点とするのが困難になったことにより「バーチャル渋谷」という形で、渋谷という街のカルチャー性を活かした、自治体ぐるみのバーチェル・エンターテイメントを提供してきました。

そして2022年、より日常生活や実在都市に根付くものとして「デジタルツイン渋谷」というプロジェクトもおこなっています。渋谷区内をデジタル空間上に再現し、分析や予測をおこないスマートシティを創造するというもので、一般社団法人渋谷未来デザインと一般財団法人渋谷区観光協会を中心とした「渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト」とKDDIが連携して開始しました。
リアル空間では、スマートフォンを街にかざすとバーチャル空間の参加者が街に現れ、バーチャル空間では、リアル空間の参加者が現れるといった形で、リアルとバーチャルの都市の住人が空間を超えて日常を共にできる、文字通りデジタルツインの都市型プロジェクトになります。

KDDIは「#渋谷攻殻 NIGHT by au 5G」や「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス」、「シブハル祭」などのバーチャルイベントを定期的に開催していて、さまざまな賞なども受賞しています。
その中の「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス」を元にバージョンアップしたもので、「VC(ブイシー)」というサービスが2023年春から始まっています。バーチャル空間を自由に歩き回り、同じ趣味や目的を持った人たちと出会うことができるメタバースプラットフォームで、音楽ライブや展示会、コミュニケーションを取れる居酒屋やクラブなど、さまざまなスペースが設置され、アバターなどのアイテムの一部はNFTとして所持することができます。

さらに、2023年3月7日メタバース・Web3サービス「αU (アルファユー)」を始動しました。メタバースで友人との会話を楽しめるαU metaverse、360度自由視点の高精細な音楽ライブを楽しめるαU live、デジタルアート作品などの購入ができるαU market、暗号資産を管理できるαU wallet、実店舗と連動したバーチャル店舗でショッピングができるαU placeというラインナップです。クリエイターが発信するコミュニティを支えるためのプラットフォームという側面も見えてきます。


αU metaverse


日本のメタバース事情の展望

日本のメタバースの現状を、大手携帯会社の施策から整理してきました。概観すると、新規のプロジェクトが次から次へと生まれている印象です。一方、世界のメタバース市場に目を向けると、先行する米メタ(旧フェイスブック)であっても、開発費が増大し先行きは不透明です。メタバース市場を制する方程式は未だ確立されておらず、それどころか、引き続き新たな参画やプロジェクトが乱立していく「黎明期」といえるでしょう。

そのような中で、日本におけるメタバース文化の「土壌」は、確実に育ってきていると思います。三菱総合研究所が発表した、「メタバースの認知・利用状況に関するアンケート結果」(2022年度)によれば、メタバースの認知状況は、2022年の6月から12月のわずか半年間で「知っている」の男女合計の割合が62.7%から83.3%まで増加しました。しかし「実際に利用したことがある」と答えた人は、全体の5.5%にとどまっています。また、若年層ほど認知していることや、利用経験率は男性が女性の約2.5倍になっていること、現在はゲームでの使用が最も高いといったことが把握できます。

これには、今回見てきた日本の携帯各社の施策の方向性が、エンターテイメント性に寄せたものがメインであったことも少なからず影響しているように見えます。認知度は確実に上がっている一方で、実際に利用する層は未だ少数派であることから、メタバースに対する意識的な敷居の高さや、心理的距離感がある人は未だ多いと考えられます。データにはありませんが、都市部と農村部といった地域差によっても、人々のメタバースへの意識にはギャップがあるかもしれません。しかし、都市から離れた地域ほど、例えば都市でのリアルイベントにバーチャルから参加できたりといったデジタルツインコンテンツの需要があると想像できます。

新型コロナウイルスの流行による生活様式の変化も後押しして、メタバースへの注目度が一気に高まっている今、日本のメタバース事業に必要なことの一つは、さらに広範で日常的なシーンへの落とし込みではないでしょうか。エンターテイメントはもちろん、教育・学習、医療・健康、会合・面接などのビジネス応用…。より広く言えば、一部の趣味層に限らずあらゆるシーンに紐付けが可能という、私たちの新しい日常生活に根付いていくものとしてのメタバース、という視点かもしれません。

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認知は十分されてきているが利用率に課題がある国内メタバース。今後は国内携帯各社が持つ幅広い顧客基盤や第5世代通信(5G)、さらに携帯事業で培った性質的な強みとも言える「ネットワーク構築力」などを活かして、多種多様なジャンル、企業、コミュニティを巻き込むことで、成長・定着していくかもしれません。